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東工大ニュース

熱電効果により超伝導の前兆現象の全容を解明

超伝導体の示す熱電効果の標準データを提示

公開日:2024.03.19

要点

  • 超伝導の前兆現象である微弱な「ゆらぎ」を、熱電効果により検出することに成功
  • 2次元超伝導体の異常な金属状態の起源が、量子的なゆらぎが最大となる量子臨界点の存在によることを実証
  • 温度と磁場に対する超伝導のゆらぎの全貌を明らかにし、超伝導体の示す熱電効果の標準データを提示

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の家永紘一郎助教、大熊哲教授の研究グループは、超伝導体の熱電効果[用語1]を超伝導転移温度よりはるかに高温から絶対零度付近の極低温までの広い温度範囲で、広い磁場にわたって測定することにより、超伝導の前兆現象である微弱な超伝導のゆらぎ[用語2]を検出することに成功した。

原子レベルに薄い2次元超伝導[用語3]の性質は、超伝導のゆらぎから大きな影響を受けている。特に量子的なゆらぎはさまざまな興味深い現象を引き起こすが、従来の電気抵抗測定では、ゆらぎの信号と電子の散乱の信号を区別することができなかった。

熱電効果測定を用いた今回の研究は、超伝導のゆらぎを選択的に検出することで、温度と磁場に対する超伝導のゆらぎの全貌を明らかにした。さらに、2次元超伝導の分野で30年来未解決の問題となっていた磁場中の異常な金属状態が、量子的なゆらぎが最も強くなる量子臨界点[用語4]の存在に起因することを実証した。本研究の結果は、超伝導体が示す熱電効果の標準データともなる。

本研究成果は2024年3月16日に「Nature Communications」(ネイチャー コミュニケーションズ)オンライン版で公開された。

背景

超伝導体とは、低温で電子がペアを組むことで電気抵抗がゼロになる物質であり、強力な電磁石の材料として医療用のMRIなどに用いられている。また、極低温で動作する量子計算機の微小な演算素子としても重要視されており、超伝導体を微小化した際の極低温での特性の解明が求められている。

原子レベルに薄い2次元超伝導体は超伝導のゆらぎの影響を強く受けるため、厚い超伝導体とは大きく異なる性質を示す。超伝導のゆらぎには、高温で顕著になる熱的(古典的)なゆらぎと、極低温で重要となる量子的なゆらぎがあり、後者はさまざまな興味深い現象を引き起こす。例えば、絶対零度で2次元超伝導体に垂直に印加した磁場を増加させると、抵抗ゼロの超伝導から電子が局在した絶縁体へと転移する。この現象は磁場誘起による超伝導-絶縁体転移と呼ばれ、量子的ゆらぎによって引き起こされる量子相転移[用語4]の代表例である。

ところが、局在効果が比較的弱い試料では、中間の磁場領域において、電気抵抗が常伝導状態よりも数桁も低い異常な金属状態が現れることが1990年代から知られている。この異常な金属状態の起源として、超伝導体中に侵入した磁束線 (図1左)が、量子的なゆらぎによって液体のように動き回る状態が予想されている。しかし、これまでの2次元超伝導体の実験の大半では、電流に対する電圧応答を調べる電気抵抗測定が用いられてきたため、磁束線の運動に由来する電圧信号と、常伝導電子の散乱に由来する電圧信号とを区別することは困難であり、この予想は実証されてこなかった。

そこで本グループの先行研究では、電流ではなく、熱流(温度勾配)に対して電圧が発生する熱電効果を用いることにより、異常な金属状態で磁束線の量子的運動が起こっていることを明確に検証した[参考文献1]。しかし、異常な金属状態の起源を明らかにするためには、超伝導状態が量子的ゆらぎによって壊されて常伝導(絶縁体)状態へ移り変わっていく機構を解明する必要がある。そこで本研究では、常伝導状態の中に存在すると考えられている、超伝導の前兆状態である超伝導ゆらぎ状態(図1中央)の検出を目指した測定を行った。

図1. (左)適度な大きさの磁場中では、磁束線が、超伝導電流の渦を伴った欠陥として侵入する。(中央)超伝導の前兆である「超伝導ゆらぎ」状態の概念図。時間的に変動し、空間的に不均一な泡のような超伝導領域が形成される。(右)熱電効果測定の模式図。磁束線や超伝導ゆらぎは熱流(温度勾配)と垂直方向に電圧を発生させる。
図1.
(左)適度な大きさの磁場中では、磁束線が、超伝導電流の渦を伴った欠陥として侵入する。(中央)超伝導の前兆である「超伝導ゆらぎ」状態の概念図。時間的に変動し、空間的に不均一な泡のような超伝導領域が形成される。(右)熱電効果測定の模式図。磁束線や超伝導ゆらぎは熱流(温度勾配)と垂直方向に電圧を発生させる。

研究成果

本研究では、一様な構造と乱れを持つ2次元超伝導体として、アモルファス構造[用語5]のモリブデンゲルマニウム(MoxGe1-x)薄膜を用いた。厚さは10 ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)で、2次元系に特有のゆらぎの効果が期待できる。電気抵抗測定では、ゆらぎの信号は常伝導電子の散乱の信号に埋もれて検出できない。そのため本研究では(1)超伝導ゆらぎ(超伝導の振幅のゆらぎ)と(2)磁束線の運動(超伝導の位相のゆらぎ)という2種類のゆらぎを検出できる熱電効果測定を行った。試料の長さ方向(縦方向)に温度差をつけると、超伝導ゆらぎと磁束線の運動は横方向に電圧を発生させる。これに対し、通常の電子の運動は主に縦方向に電圧を発生させる。特にアモルファスのような電子が動きにくい試料では、電子が横方向に発生させる電圧は無視できるため、横方向の電圧を測定することにより、ゆらぎの寄与だけを選択的に検出できる(図1右)。

このアモルファス試料を用いて、超伝導転移温度である2.4 K(ケルビン)よりはるかに高温から、絶対零度に近い0.1 K(室温である300 Kの3,000分の1)という極低温までの範囲において、さまざまな磁場中で熱電効果測定を行った。その結果、超伝導の位相のゆらぎが顕著に現れる磁束の液体領域(図2の濃い赤色の領域)だけでなく、それより外側に位置する、超伝導が壊れた常伝導領域と考えられている広い温度-磁場領域にわたっても超伝導ゆらぎが生き残ることが明らかになった(図2の上凸の実線で示した臨界磁場曲線より高温-高磁場領域)。

この測定結果で特筆すべきことは、熱的(古典的)なゆらぎと量子的なゆらぎの間のクロスオーバー線の検出に初めて成功したことである(図2の太い実線)。このクロスオーバー線が絶対零度に到達する点の磁場の値は、量子的なゆらぎが最も強くなる量子臨界点に相当すると考えられるが、その点(図2の白丸)は明らかに、電気抵抗測定によって異常な金属状態が観測された磁場範囲の内部に位置することが分かった。この量子臨界点の存在は、これまでの電気抵抗測定からは捉えることができなかったものである。この結果により、30年来未解決となっていた、2次元超伝導体の絶対零度における磁場中の異常な金属状態が、量子臨界点の存在に起因すること、すなわち、この異常な金属状態は、超伝導-絶縁体転移の臨界点が磁場軸上で広がった量子臨界基底状態であることが明らかになった。

図2. 超伝導のゆらぎを捉えた熱電信号のカラーマップ。超伝導転移温度よりもはるかに高温から0.1 Kの極低温までの範囲において、広い磁場範囲にわたって超伝導のゆらぎの全貌が明らかになった。熱ゆらぎ-量子ゆらぎクロスオーバー線の存在が初めて実証され、この線が絶対零度に到達する量子臨界点は、異常金属領域の内部に存在することが分かった。
図2.
超伝導のゆらぎを捉えた熱電信号のカラーマップ。超伝導転移温度よりもはるかに高温から0.1 Kの極低温までの範囲において、広い磁場範囲にわたって超伝導のゆらぎの全貌が明らかになった。熱ゆらぎ-量子ゆらぎクロスオーバー線の存在が初めて実証され、この線が絶対零度に到達する量子臨界点は、異常金属領域の内部に存在することが分かった。

社会的インパクト

アモルファスの従来型超伝導体で得られた熱電効果の測定結果は、常伝導電子の寄与を含まない、純粋に超伝導のゆらぎの効果だけを捉えたものであることから、超伝導体に対する熱電効果の標準データとみなすことができる。熱電効果は電気式冷却装置などへの応用面からも重要であり、冷却温度の限界を更新するために低温で大きな熱電効果を示す物質の開発が求められている。ある種の超伝導体では低温で異常に大きな熱電効果が報告されているが、本データとの比較はその起源を解明する手がかりになると考えられる。

今後の展開

本研究を発展させた学術的興味としては、今回の試料よりも局在効果が強い2次元超伝導体においては、磁束線が量子凝縮状態[用語6]になるという理論予想がある。今後はその状態の検出を目指して、本研究の手法を用いた実験を展開する予定である。

付記

本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(B)(22H01165)、若手研究(20K14413)、挑戦的研究(萌芽)(21K18598, 23K17667)と、東京工業大学 大隅良典基礎研究支援、あすなろ研究奨励金の助成を受けて行われた

用語説明

[用語1] 熱電効果 : 熱エネルギーと電気エネルギーを交換する効果。温度差を与えると電圧が発生し、反対に電圧を与えると温度差が生じる。前者は発電装置として、後者は冷却装置としての応用が研究されている。本研究では超伝導のゆらぎの検出方法として用いている。

[用語2] 超伝導のゆらぎ : 超伝導の強さが均一ではなく、時間?空間的にゆらいでいること。通常は熱によるゆらぎが生じるが、絶対零度付近では量子力学的な不確定性原理に基づいた量子的なゆらぎが生じる。

[用語3] 2次元超伝導 : 非常に薄い超伝導体。厚さが超伝導を担う電子のペアの距離よりも薄くなると、超伝導のゆらぎの効果が強くなり、厚い超伝導体とは大きく異なる性質を示す。

[用語4] 量子臨界点量子相転移 : 絶対零度において磁場などのパラメータを変化させたときに起こる相転移は量子相転移と呼ばれ、温度変化によって起こる相転移とは区別される。量子臨界点とは量子相転移が生じる相転移点のことであり、そこでは量子的なゆらぎが最も強くなる。

[用語5] アモルファス構造 : 原子が不規則に配列し、結晶構造を持たない物質の状態。

[用語6] 量子凝縮状態 : 多数の粒子が最低エネルギー状態に落ち込み、ひとかたまりの巨視的な波として振る舞う状態。超伝導状態では多数の電子のペアが凝縮している。液体ヘリウムも2.17 Kまで冷やせば凝縮し、粘性がゼロとなる超流動が生じる。

参考文献

[1] K. Ienaga, T. Hayashi, Y. Tamoto, S. Kaneko, and S. Okuma, Physical Review Letters, 125, 257001 (2020).

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Broadened quantum critical ground state in a disordered superconducting thin film
著者 :
Koichiro Ienaga, Yutaka Tamoto, Masahiro Yoda, Yuki Yoshimura, Takahiro Ishigami, and Satoshi Okuma
DOI :

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